東京高等裁判所 昭和33年(ネ)627号 判決
以上の事実を綜合すれば、神奈川証券と斎藤との間に本件停止条件付代物弁済契約が締結せられた昭和三十年二月一日及び右条件が成就した同年四月一日当時の本件建物の価格は、控訴人の主張するように高額のものでなく、借地権、映画用付属動産の価格を加えても金二百五十万円程度で、多くみても金三百万円には満たない程度のものであつたとみるのが相当である。そしてこの事実と本件金七十万円の貸借は斎藤キミが映画の休業中であつた本件建物を買受け危険負担の多い映画館を経営する資金の一部のためになされたこと(この点は原審証人大庭仁、当審証人小川秋郎の証言によつて明らかである。)及び前記認定のような、本件貸借に至る経過などを斟酌すれば、斎藤キミの債務不履行の場合に本件建物を金七十万円と評価して代物弁済すべき旨の本件契約(甲第三号証)をもつて、控訴人のいうように信義則に反するものと認めることはできない。殊に、右契約後、昭和三十年十一日における斎藤と神奈川証券との間の前記裁判上の和解においても、斎藤は右契約により本件建物が神奈川証券の所有となつたことを承認しているのであつて、右当事者間においてはもはや神奈川証券の所有権を争う余地がなく、この事実によつても、本件契約が斎藤の困窮に乗じて為されたとかその他信義則ないし公序良俗に反するものであるなど右契約の効力を否定する事情の存することは到底これを認めることができない。
(薄根 村木 元岡)